第7章 近づく ~淡きひかり~
ひいろを抱いていた手を滑らせて、その頬に添える。柔らかい素肌の感覚が指先から痺れるように伝わる。
「泣いているのか?」
「分かりません。……ただ、苦しいのです。家康様を思うと……苦しいんです」
「苦しいか」
「……はい」
答えを求めるように、ひいろは俺を見つめ続ける。
「……恋……か」
「恋………とは、苦しいものですか?」
ひいろの手が伸び、俺の頬に触れる。
「光秀様も、苦しそう……」
「俺も……か…」
俺は今、どんな顔をしているのだろう。
『 恋 』
自分の中の想いに、そう名を付けてしまえば楽なのかもしれない。俺はお前が恋しいと。
だが、その「お前」とは誰なのか、俺は「誰が」恋しいのか?「恋」と認めたら、俺はどうなるのか。
恋などという甘い幻想など、とうの昔に置いてきたはず。そう、今さら俺などには眩しすぎるもの。