第6章 近づく
「家康もそんな顔することあるんだね」
珍しく面白がるようにそう言ってから、ことねはひいろに向き直る。
「はじめまして、ことねです。ひいろさんですね。画集ありがとうございました。すごく素敵で、参考にさせて頂いてます」
ことねは、満面の笑みを浮かべひいろに頭を下げる。ひいろは驚いて握っていた俺の袖を離し、困った顔で同じように頭を下げる。
大輪の華が咲き誇っているようなことねと、凛とした一輪の華のようなひいろが、互いに頭を下げる姿は、周囲の眼をひいた。特に男達からの舐めるような視線が多かった。
それらを牽制するかのように、家康がことねと繋いでいる手を引き寄せる。
「一応姫様なんだから、あんまりぺこぺこしない。ひいろが困ってる」
「そうだな、ひいろにとってお前は姫様だ」
そう言いながら、俺はひいろの肩を引き寄せ、回りの者に男連れであることを強調する。
変な虫がついては面倒だからな。
自分にそう言い聞かせてはいるものの、ひいろに触れる指先は、意味あるように熱を持つ。
そんな俺に肩を抱かれながら、ひいろは家康とことねが繋ぐ手を見つめ、家康は俺とひいろを見て、また少し不機嫌そうな顔をした。