第6章 近づく
好きな男が女と一緒に現れた。しかも手を繋いで。
ひいろが隠れるには、十分な理由なのだろう。そう思い、俺の後ろに隠れたひいろに声をかける。
「ひいろ……大丈夫か?」
首だけで振り向いてみると、ひいろは俺の浴衣の袖を掴み、もう一方の手で自分の口元を押さえ、眼を閉じていた。俺の声に軽く頷き、眼を開ける。悲しげな色をした眼で俺を見た後、そっと微笑み俺の影から出て、家康達を待つ。こっそりと俺の袖を掴んだまま。
その頃にはことねも俺とひいろの存在に気が付き、嬉しそうに笑い、手を振りながらやって来た。
「光秀さん、ひいろと一緒にお祭りですか」
「あぁ、見ての通り祭りに来た」
家康は、いつもより少し不機嫌そうに見え、隣にいるひいろが、慌てて頭を下げ挨拶をする。
「髪、あげてるんだね。一瞬分からなかった」
家康は、一瞬ひいろを見て、どこか拗ねたように視線をずらす。
「なんだ家康、素直に綺麗だと言ってやったらどうだ」
俺の言葉に、家康の隣にいることねが大きく頷く。
「そうだよ、家康。声かけたかったから急いで来たんでしょ?」
「なっ、何言ってるのことね!?余計なこと言わないでくれる」
ことねの言葉に、家康は珍しく大きく反応を見せた。そんな家康を見て、俺とことねは顔を見合わせ、密かに笑い合った。