第6章 近づく
恥ずかしそうに頬を染め、少し怒ったように俺を見るひいろの顔。
その顔がどれ程男を煽っているか、分からせてやりくなり、俺の中にぞくりとした欲望が動き出す。
今すぐにその手を取り、この胸に抱き止め、白いうなじに噛みついてやろうか。そんな思いが、ぞくぞくと広がる。ひいろの肌を知った指先は熱をもち、肌を求めて動き出そうとする。
が、一呼吸おき、その手をきつく握る。
番頭の顔と言葉が頭をよぎる。
『ひいろ様を抱いていただけませんか』
表情なく俺を見ていた番頭の顔。
あの位のことで動じるなど、俺らしくもない。
そう思い、広がり始めた欲望を押さえ込み、ひいろの名を呼ぼうとした。瞬間、後ろから声が掛かる。
「光秀さん?」
振り向くと、少し離れた所で家康が驚いたように俺を見ていた。その声に気付いたひいろが、俺の影から顔を出し、家康を見て一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに慌てたようにまた隠れる。
「あれ?……ひいろ?」
一瞬だったが、家康にはひいろと分かったらしい。急に隠れたのが気になったのか、足早に近づいてくる。
「ちょっ、家康!ちょっと早いよぅ」
その後ろから女の声がして、ことねの顔が見える。手を繋いでいるのか、引っ張られるように歩いているが、 その姿は大輪の花が咲いたように華やかに艶やかに見えた。