第6章 近づく
しばらく話し気が付いたのか、ひいろが慌てて俺を見る。
「ごめんなさい、光秀様」
「気にするな、俺も興味深く聞いていた」
「お付き合い頂いて、ありがとうございます」
ひいろが嬉しそうに頬笑むのを見て、俺は朝顔の花簪を手に取る。
「店主、これをもらおう」
ひいろが驚いた顔で俺を見る。
「浴衣の礼だ。お前も気に入っただろ?」
「でも、そんな頂けません…」
「娘さんは、男を見る眼もあるようだね。旦那の気持ちを受け取っておやり」
店主かそう言うと、ひいろは口を閉じて頭を下げる。それを見て笑みを深めた店主は、楽しませてもらったからと、随分と安い値段を口にする。俺はそれに色をつけ金を渡す。
「娘さんの眼は間違いないね、やはりいい男だよ。大切になさい」
ひいろは申し訳無さそうに俺を見て、また頭を下げる。
「ありがとうございます」
「付けてやる。後ろを向け」
後ろを向かせ、ひいろの髪に朝顔の花簪を挿す。黒い髪に水色と白がよくはえ、一層艶やかに見えた。
その髪から続く白いうなじが、やけに眩しく眼に映る。指先でひとなですると、驚いたようにひいろが振り向く。
「本当に白いな」
小さく呟くと、ひいろが少し頬を染めながら、自分の手でうなじを隠す。
「あまり見ないで下さい。恥ずかしいから……」