第6章 近づく
ふいにひいろが立ち止まる。
その視線の先には小さな小間物屋があり、初老の男が店先に台を置き、櫛や簪を並べていた。吸い寄せられるように、ひいろが近づく。
「綺麗……」
ひいろが呟いたその先には、水色の朝顔を型どった花簪あった。一目見ただけで、それが丁寧な仕事であることが分かった。他の花簪に比べ、地味な造りだが、花の丸みや葉の形、色の濃淡まで細部に渡り細かく仕事がされていた。
それはまるで、ひいろの描く絵のように、忠実に朝顔の花を再現していた。
「娘さん、いい眼をしてなさるね」
店の主であろう、初老の男が嬉しそうに声をかけてくる。絵師としての血が騒ぐのか、ひいろは興味深そうに色の出し方や染め方など、簪の作り方について色々と質問する。店主も余程嬉しいのか熱心に答え、他の櫛や簪を持ち出し説明する。
俺の存在など忘れたように夢中で話しているひいろが、何故だか微笑ましく思えた。