第1章 はじまり
「手強い娘…?」
俺の言葉に答えるかのように、ひいろは俺を見て、初めてにこりと笑った。
「ありがとうございます。光秀様。」
初めて俺の名前を呼び見せた笑顔は、化粧っけもなく、派手さも艶やかさもないが、ふわりとした優しい笑顔だった。
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その後俺は、御館様への荷物を預り、吉右衛門が「秀吉様には秘密ですよ。」と渡した、小瓶に入った金平糖とひいろが描いた動植物の画集を懐に入れ、城へと歩いた。
あの後、俺の絵を描くというひいろとは、特に話もせず、後日いろは屋を訪ねるということで話はついた。
ひいろは、一度俺の名を呼んだ後は口を開かず、吉右衛門と俺のやり取りを静かに見ていた。ただ、俯くことはなくなり、口元には微かな笑みを浮かべていた。