第6章 近づく
「ごくり……」
番頭の隣で他の浴衣を片付けていた手代が、生唾を飲む音が聞こえる。番頭と俺も一瞬息を飲む。女中頭は、男達の様子を見て、満足そうに微笑む。
それほどにひいろの姿からは、色香が漂っていた。髪を上げ白いうなじを出し、紅をさしただけだが、普段と違い恥ずかしそうに頬を染める姿は、男の視線を惹き付けた。
「あの…変ですか?人前で髪をあげることは余りないので……」
皆の様子に不安になったのか、ひいろが心配そうに話す。困ったように顔をあげ、言葉を話すだけなのに、紅をさした唇が妙に艶かしく眼に映る。
手代がまた生唾を飲み込んだ。
「大丈夫ですよ、ひいろさん。皆あなたに見惚れているだけですよ。いつもと少し違うだけなのにね。」
女中頭が、何故だか誇らしげにひいろに笑いかける。そしてひいろの手を引いて、俺の隣に連れてくる。
「私は、若い綺麗な娘さんのお手伝いが出来て、嬉しいですよ。なかなか此処では、そうした機会がなくて……。さぁ、光秀様。ひいろさんはいかがですか?」
意味深な笑みを俺に向け、答えを急かすように女中頭が言う。ちゃんと誉めて上げてるようにと、その眼が俺を見る。
結いあげた頭に触れることはできず、ひいろの頬に手を伸ばし、顔を上に向ける。頬に触れた指先から伝わる温もりが、じわじわと俺の胸を犯す。