第6章 近づく
「お待ちしておりました、光秀様。いつもありがとうございます。本日は、いろは屋吉右衛門様より申し使って参りました。ひいろ様、お見立ては番頭さんがして下さってますよ。」
馴染みの呉服屋の番頭が、にこにこと挨拶をする。ひいろとも顔馴染みのようで愛想よく笑いかける。
座敷には、思った通り浴衣が幾つも用意されていた。予想外だったのは、そこに俺の分も用意されていたこと。
「せっかくだから、一緒に着てください」
ひいろにそう言われ、特に断る理由もなく着ることにした。
ひいろは、いろは屋の番頭が見立てた中から1つを選び、女中頭と別の部屋へと着替えに行った。
俺は、いくつかある中から水色の無地のものを選び、番頭に世話を焼かれ着替える。
「いつもながらお似合いでございます、光秀様」
番頭の世辞を聞き流し、軽く世間話をしながらひいろを待つ。
「お待たせしました」
女中頭が嬉しそうな顔をして戻ってくる。しかし、ひいろは廊下からなかなか入って来ない。
「ひいろ?」
俺の声と女中頭の促しに、やっとひいろが姿を表す。
うつむきがちに座敷に入って来たひいろは、白地に淡い水色と瑠璃色を使って朝顔が描かれた浴衣に、銀糸の織り込まれた天色の帯と刈安の帯紐を締めて、普段はおろしている髪を上げ、紅をさしていた。