第6章 近づく
「光秀様?」
心配そうに、ひいろが俺の名を呼ぶ。
「お前に伝える前に、話が大きくなってきたな」
「いろは屋が何か…………?」
小首をかしげながら、ひいろが俺を見る。
「送ってきた番頭に、今日は遠回りをして帰るから、いつもより遅くなると伝えておいた」
「遠回り……」
「夏祭りの市が立つ。一緒に行くか?」
驚いたのか、ひいろの眼が大きく開かれる。
「初めて殿方に、お祭りに誘われました」
「俺でよいか?」
「はい!」
満面の笑みを浮かべ、嬉しそうにひいろが答える。その頬にまた触れたくて、手を伸ばす。が、途中で行き先を変え、ひいろの頭を優しく撫でる。
何故だかひいろの肌に触れるのが、少し怖かった。
「あぁ、だからなのですね。夏祭りに呉服屋。父が考えそうなことです」
頭を撫でられながら、急に合点がいったように、ひいろが苦笑いをする。
「そう言うことだろうな」
つられるように俺も笑い、連れだって呉服屋の待つ座敷へと向かう。