第6章 近づく
人の来る気配を読んでいたのか?
ひいろを見ると、何事もないように口元に小さな笑みを浮かべ俺を見ていた。
襖の方に視線を移し、声をかける。
「何用だ?」
ひいろがいる間は絵に集中できるよう、極力人が来ないように伝えてある。なので、人が来るのは珍しいことだった。
「すみません、光秀様」
申し訳無さそうな顔をして、女中頭が襖の影から姿を表す。
「大丈夫だ。ひいろの用は済んだから」
それを聞くと安心した顔となり話し出す。
「いろは屋より、お届け物だと……」
「届け物?」
「はい、本日の予定に間に合うようにと、呉服屋が来ております」
「呉服屋だと?」
俺の声に女中頭がおろおろと狼狽える。
「あの……帰って頂いた方がよろしいでしょうか?」
「……いや、大丈夫だ。いろは屋からの申し出なら、座敷に上げておけ」
「はい」
返事をすると、女中頭は一瞬嬉しそいな顔をして、下がっていった。たぶん、何のために何を用意してきたのか聞いたのだろう。
そうでなくても、ことねやひいろが出入りするようになり、屋敷の者たちは少し落ち着かないようだった。『若い娘が俺に会いに来る』それだけで、今までにない風が屋敷に入り、屋敷内の空気を変えていた。