第6章 近づく
「本当に、少しだけですよ」
俺の苦笑いの意味を感じ取ったのか、ひいろが気遣うように言う。
「あぁ」
ひいろと視線を合わせる。髪をほどき、強い挑むような瞳の絵師から、柔らかな笑みを浮かべたひいろの顔に戻っている。
どちらの顔も捨てがたいな……
そんな思いが、目覚めたばかりの頭に浮かんで消えた。
風が通り、はらはらとひいろの髪が、また俺の頬をなでる。
また同じように、ひいろの耳にかけてやる。そしてそのまま、ひいろの頬に手を添える。柔らかくあたたかな感触が、指先から心地よく伝わってくる。
俺の動きに身じろぎもせず、ひいろは笑みを浮かべ俺を見おろしていた。
「美しいです」
「なに?」
「光秀様のお顔。寝顔も。睫毛が長くて、整っていて、日の光りを受けて、髪もキラキラと。見惚れてました」
そう言いながら、頬に触れている俺の手に自分の手を重ねる。
そして間を置いて、やんわりと俺の手を握り、頬から離し畳の上にと置く。いつもの畳の感覚が、やけに冷たく感じた。
「美しいと言われ、喜ぶのは女の方だろ」
「そんなこと。美しさに男も女も関係ありません」
そう言いながら、ひいろは身体を起こす。つられるように俺も起きる。
そして、ひいろの隣に座り直すと、はかったかのように、襖の影から声がかかる。
「失礼します。」