第6章 近づく
~光秀 御殿~
頬を何かが撫でるような感覚がして、目が覚める。
ゆっくりと瞼を開けると、優しく微笑むひいろが見える。
「お目覚めですか、光秀様」
仰向けになっている俺の頭の方に座り、顔を覗き込んでいたひいろが、近い位置で囁く。
頬に触れたのはひいろの髪だったらしく、ひいろの動きに合わせて、さらさらと俺の頬を撫でる。その髪をすくいとり、ひいろの耳にかけてやる。くすぐったそうにしながらも、ひいろは俺の顔を覗き込んだまま動かなかった。
「髪……ほどいたのか?」
「はい。絵は、描き終わりましたから」
「……寝ていたか?」
「少しだけ。お疲れなのですね」
久しぶりに絵を描きに来たひいろに、寝姿が描きたいと言われ、俺は畳の上に寝転がった。横を向いたり、肘を枕にしてみたり、上半身だけ起こしてみたり、ひいろの描きたいように動いてやる。
開け放たれた襖の間を通り、夏の風が吹き抜ける。蝉の声がやみ、静けさが訪れる。俺は仰向けになり、眼を閉じる。ひいろの動かす筆の音が、心地よく耳に届いた。
そして、そのまま寝ていたらしい。
疲れていたとはいえ、自分の御殿だからとはいえ、俺は何処までひいろに気を許しているのか……。
呆れ返り、苦笑いをうかべる。