第1章 はじまり
「男の絵?」
別に描けばいいのではないかという、俺の気持ちが伝わったのか、吉右衛門が続ける。
「男の絵を描くということは、男と二人きりで過ごすということです。どこの馬の骨とも分からぬ奴と娘を二人きりにするなど………と、暫く何もせずにいましたが、なかなかそうも行きません。そんなことを考えている時に、丁度信長様とお会いする機会がございまして、信長様が『ならば武将を描けばよいと』申されました。」
「……武将の絵を?……」
「はい。『武将ならば、色々と問題あるまい。絵としても高値で売れ、商売になるであろう。』と仰せになられました。」
「それで、俺か?」
「はい。」
「そういうことは、秀吉か政宗が適任だと思うが……」
「いけません!政宗様はいけません。」
吉右衛門が慌てたように立ち上がる。
「秀吉様の人たらしは、ご存じでございましょう。それに政宗様と、年頃の娘を二人きりにするなど…いけません。」
「……くっくっ。ならば、俺は安全と言うことか。」