第1章 はじまり
顔を上げたひいろと、
眼が合う
力強く、挑むような瞳
深く、深く、見透かすような視線
一瞬、眼が離せなくなる。
視線を先に外したのは、ひいろだった。
また俯き、膝に置いた手を小さく握る。口元が微かに上がった気がした。
そんなひいろを見て、吉右衛門が嬉しそうに頬笑む。
「この絵を描いたのは、ひいろなんです。」
俺は小さく息をのむ。ただ静かに座るひいろからは、想像できないほど、絵の女は艶やかだった。
「ありがとうございます、光秀様。ひいろは、絵師として稼業を手伝っております。親馬鹿と言うのでしょうか、親の目から見ても、商人として見ても、ひいろの絵の腕はなかなかだと思っております。」
よほど嬉しいのか、吉右衛門の頬は緩むばかりだった。確かに絵の腕は良いのだと分かったが、それが俺にどう関係するのか、話を先に続けるよう吉右衛門を目で促した。
「これは失礼しました……。娘のことになるとつい。さて、この度のお願いですが、娘の、ひいろのことでございます。実は本人より前々から言われていたのですが……」
吉右衛門は少し困ったような顔をして続ける。
「ひいろが、男の絵を描きたい、と。」