第4章 おもい~その2~
「ならば、家康に頼めばよいだろう。ひいろの思いなど把握しているだろう」
俺の言葉に、番頭は少し遠くを見るようにして、口を開いた。
「お嬢様にとって、家康様の存在は眩しすぎるのです………家康様は、お嬢様にとって大切な光ですから」
番頭は、目線を俺に移し続ける。
「お嬢様は、家康様にうまれて初めての恋をしているのです。初めて恋を……」
「恋……だと………」
番頭は、黙ったまま頷き眼鏡を直す。
「………ならば、なぜ俺にこの話を持ってきた」
俺のその言葉を待っていたかのように、番頭は懐から一枚の絵を取りだして、俺の前に置いた。
「…………?……………!!」
その絵を見て俺は言葉を失った。
そこには、俺自身が覚えのないような、柔らかい微笑みを浮かべた俺がいた。
言葉が出ないでいる俺を見て、思った通りだとでも言うように番頭が話し出す。
「お嬢様の悪い癖です。お嬢様は気を許した相手に限りですが、その方の心も読み取り、一緒に絵に閉じ込めてしまうのです。」
「心……?俺の心ということか?」
「はい。その絵を描きあげた後で、お嬢様はこの絵と同じ様に微笑みながら言われました。『光秀様は、とても優しい心をお持ちなの』と」
「……ならばお前の言う、その『優しさ』というもので、俺にひいろを抱けというのか!?」
番頭の言葉に珍しく、心がざわつき少し声が大きくなる。