第4章 おもい~その2~
「お嬢様の心は、いつも危うい所にございます。本来ならば、しかるべき相手に嫁入りされてもいいのですが、お嬢様は絵師としてその道は捨てられました」
「……………」
「責任は、私共にあります。商売人として、お嬢様の絵を、絵師としての腕を、手離せないのでございます。もっと上手く描く方はいるでしょう……しかし、あれほどの生きた絵を描く方は、他にはございません」
番頭はひと息つき、少し顔を歪め、続ける。
「お嬢様は絵のために、男を抱いたことはあっても、抱かれて愛でられたことはございません」
「……そんなことが、なぜ分かる」
意地悪く俺が言うと、
「裏のことはご存知でしょう。知りたいことならいくらでも……」
そう番頭は小さく笑う。
「それがひいろを抱くことと、何か関係があるのか?」
俺の問に、番頭の眼鏡の奥の眼が力を増す。
「ひいろ様には、女として愛でられ、大切な方を愛し、自分自身を愛して頂きたい」
「………………」
「自分が愛される価値のある人間だと知って頂きたいのです」
「………………」
「自分をもっと大切にして頂きたい」
俺を見つめる番頭の眼の奥に、あたたかく光るものが見えた気がした。その思いは、きっと番頭の本心なのだろう。そこまでに、ひいろのことを………。