第4章 おもい~その2~
一人になり、眼を閉じる。思い出すのはことねの笑顔とひいろの顔。
ことねの笑顔は、俺を満たし心地よくさせる。明るい所にいても大丈夫だと、優しく諭すようにあたたかい。
ひいろの顔は……花街で会った時の化粧をした艶やかな顔。男を見据えた冷たい眼。番頭に見せる安堵と甘え。家康を想う女の顔。
はじめはひいろの挑むような強い眼に興味を持った…だが今は……思い出す度に正体の分からぬ思いが、首をもたげる。
あの後ひいろとは2度会ったが、あの時のことは何も言わず、何もなかったかのように振る舞っていた。俺も何も聞かずにいた。
そこには触れてはいけない何かがあるようで、見ないように、互いに踏み込まず、絵を描いて、描かれるだけの関係でいた。
唯一変わったのは、いつも帰りは俺が送っていたのに、必ず番頭が迎えに来ること。たまたまなのか、意図したものか。そんなことさえが気になる。俺も随分………
「失礼します」
襖の向こうから声がかかる。
「いろは屋の番頭が、届け物があると来ております」
「……そうか、ここへ通せ」
少し間をおき、襖の向こうから声がかかる。
「失礼致します。いろは屋の番頭でございます。」
「あぁ、入れ。」