第4章 おもい~その2~
~ 光秀 御殿 ~
文机に向い、文を読む俺の傍らで、使いに来たことねが、団子を頬張り茶を飲む。嬉しそうに食べることねの顔を見て、思わず口角が上がる。
「光秀さん、何だか嬉しそうですね」
「童みたいだなと思ってな」
「もう、またそう言うことを……」
少し頬を膨らませ、拗ねたように言うことねの頬に手を伸ばす。口元に付いた餡をすくい取り、自分の口に運ぶ。甘さとことねの香りが口の中に広がる気がした。
「ほらみろ、やはり童だな」
「ちっ、違います///」
俺の言葉に、今度は両頬を膨らませてみせる。その頬を指先でつつくと、少し怒ったように横をむく。
こんな時間が心地よいと思うのはいつ以来だろう。ことねと出会い、俺は明るい所にいる時間が増えた気がする。
「ことね 。秀吉からの文に、俺の所で長居し過ぎるなと書いてあるぞ。出掛けるのだろ?」
文の最後に『出掛ける予定があるので、ことねを引き留めるな』と書いてある。秀吉のことだ、しびれを切らして、今頃此方に向かってきてるかもしれない。
ことねのことになると、兄と称しては甘やかし放題だからな。
「そうだった。早く行かないと秀吉さんに怒られちゃう」
ことねは茶を飲み干すと、俺に手を伸ばし頬をつつく。
「お返しです」
「……だから童だ」
ふわりと笑い、眩しい笑顔と花のような香りを残し、ことねは帰っていった。