第1章 はじまり
「光秀様、これは末の娘の ひいろ でございます。お見知りおき下さいませ。」
「ほぅ。いろは屋には娘がいたのか。息子ばかりかと思っていたが。」
「娘は一人なもので、つい可愛がりすぎまして…あまり表には出しておりません。」
そう話している間も、ひいろと名乗ったその女は、俯いたまま姿勢も崩さずに、ただそこにいた。娘の披露目となれば、もっと着飾り化粧をしていても良いはずなのに、ひいろはにこりともせずに、ただそこに控えていた。
俺に引き合わせる意図が読めず、俺は内心少し困惑していた。その空気を感じ取ったのだろう。吉右衛門が居ずまいを正し、口を開く。
「本日は、光秀様にお願いの義がございます。まずはこちらを御覧下さいませ。」
そう言うと、吉右衛門は胸元から数枚の紙を出し、俺の前に並べた。そこには、うさぎや猫の動物や草花、そして艶やかに微笑む女の絵が描かれていた。
どの絵も本物かと見間違える程の出来だったが、特に女の絵は、そのまま吐息が漏れ出てきそうなほどに妖艶で美しかった。
「美しいな」
ふと漏れた俺の一言に、ひいろが反応した。顔を上げ、俺を見る。