第3章 想い 【*R18表記あり注意*】
「こちらでしたか。探しましたよ。」
珍しく少し慌てた様子で、番頭が現れる。ひいろの姿を確かめると、俺に一礼し、ひいろから包みを預かる。
俺がひいろから手を離すと、番頭は眼鏡を直しながらぐるりと周囲を見回す。周りからの好奇の視線が消え、いつもの花街の時間が流れはじめる。
「大丈夫です。家康様は、お待ち下さってますよ。」
ひいろの心を読むように、番頭が声をかける。ひいろの表情が落着き、瞳もいつもの色を取り戻す。
「すみませんでした。私の迎えが遅くなってしまい、ご迷惑をお掛けしたようで……。次のお客様とのお約束がございましたので、本人も慌てたのでございましょう。」
「そのようだな。」
番頭は俺に頭を下げると、ひいろに向き直り大きくため息をつく。
「あれほど、見世で待っているよう伝えたのに…また騒ぎを起こされては困ります。」
「ごめんなさい。でも、家康様との約束が……。」
「大丈夫です。その後の御予定はないそうなので、離れでお待ち頂いてますから。」
「良かった。」
番頭の言葉に、ひいろは安心したように頬笑む。番頭は、そんなひいろの乱れた髪や着物を慣れた手つきで直してやる。そして、最後に頬に触れひいろの顔を上に向ける。
「随分 愛らしくして頂いたのですね。」
「変かな?」
「大丈夫です。もう少し淡い色の方が似合いますが。」
番頭に頬笑むひいろの顔。
俺の知らないひいろの顔。
安心して、甘えたような顔。
俺の中の正体のわからぬ思いが、首をもたげる。