第3章 想い 【*R18表記あり注意*】
「化粧とは、珍しいな。」
「///……姉様達に無理にされたんです。あまり見ないでください。」
ひいろが恥ずかしそうに頬を染め、下を向く。仕事先の女達に遊ばれたのか。
確かにひいろは化粧のしがいがあるのだろう。少しの化粧で艶やかになり、男を惹き付ける。普段が地味な分、その変化に驚かされる。
俺はなるべくいつもと同じ顔をして、ひいろを胸の中から離す。ひいろが落とした包みを拾い上げると、割れた絵皿が、がしゃがしゃと音を立てる。
「番頭はどうした。迎えに来るのだろう?」
「はい……そのはずなんですけど……」
そんな話をしているうちに、何かを思い出したのか、ひいろの瞳が揺れ動く。
「私、帰らないと。早く、早く帰らないと……」
俺の持つ包みを受取りながら、ひいろが呟く。
「急いで帰るなら、俺が………」
「早くしないと、家康様が……」
俺の声は聞こえていないのか、小さな声で家康の名を呟きながら、ひいろは焦ったように駆け出そうする。
俺はとっさにひいろの腕をとると、振り向いたひいろと眼が合う。少し頬を染め、困ったようなその顔は、愛しいものを想う女の顔だった。