第3章 想い 【*R18表記あり注意*】
胸に抱き寄せたひいろを見る。
俺を見上げるひいろの瞳は、いつも以上に大きく開かれ、化粧のせいなのか、いつもよりも柔らかい印象だった。
「お前の指は、絵を描く為のものだと思ったがな。」
男に向けて組んだままになっていた指を、ゆっくりと開いてやり、軽く撫でる。
「みっ…………いつ、お戻りで……。」
ひいろは、一瞬俺の名前を呼ぼうとしてやめた。回りから集まる視線に気がついたのだろう。こういう場所では、迂闊に名は出さないほうがいい。吉右衛門の躾か?裏の世界の理解があるのか?どちらにしても、聡い娘だ。
「昨日だ。留守にしていたと知っていたか?」
「はい。番頭さんが、きっとそうだと。」
吉右衛門なら、俺の動きを知るくらい造作もないことか。分かってはいたが、何故か直接ひいろに伝えていないことに後ろめたさが残っていた。
「すまなかったな、伝えずにいて。」
自然とそんな言葉が口を出る。
「ふふふっ、大丈夫です。」
嬉しそうに、胸の中でひいろが頬笑む。
化粧のせいなのか、いつもよりも優しく艶やかなひいろの顔に、一瞬眼を奪われる。
俺の中に正体のわからぬ思いが顔を出す。