第23章 願い
お互いを探るような僅かな間をおき、夜菊がその場に座し深く頭を下げる。
「嬢を…ひいろを連れ戻して下さり、ありがとうございました。でも…」
「…あぁ」
「どうして…どうして嬢だけ、あんなに傷つかなきゃならないんですかぃ?あの子が選んだことだとしても、どうして止められなかったんですかぃ!」
勢いよく顔を上げた夜菊の眼が、怒りと悲しみに潤み俺を掴み、その声で揺さぶる。
「あたしらじゃ駄目だから、お願いしてるんですよ!なのに…何で何で嬢だけ…嬢だけ…いつも…」
絞り出すように放った思いを、耐えるように唇を噛み眼を閉じる。その姿は嘘のない匂いがした。
「お前は存外、いい女なのだな」
「なっ…」
「お前の言う通りだ。俺はひいろを止めてやれなかった…」
「そっ…」
「すまなかった」
「………」
頭を下げる俺を、あっけに取られたように見開いた眼で見つめる。
「ひいろが傷ついていい道理などない。守ってやれなかった…俺の力不足だ」
「…」
張り詰めていた夜菊の顔が緩み、声を立てず小さく笑うとため息をついた。
「なるほどねぇ。嬢が懐くわけがわかりましたよぅ。やっぱり明智様は、いい男なんだねぇ」
「誉め言葉、と捉えておこう」
「なんとでも」
静かに互いに見つめ合う。夜菊の探るような視線は止み、少しは気でも許したのか口元が僅かに上がった気がした。