第23章 願い
程なく廊下の先から小さな嫗が現れた。見た目とはそぐわない、無駄のないしなやかな動きでひいろを助けた礼を述べると、一ノ助に代わり先導をはじめた。音をたてず独特な気配をさせながら湯殿前につくと、内の者に声を掛け、深々と会釈をし去っていった。
その姿に興味を覚え、去る背を見送っていると、内より声が掛かる。
「どうぞ、お入り下さい」
少し甲高い声とともに、背の丸まったずんぐりとした年増が、世話好きそうな笑みを浮かべて現れた。俺を招き入れると、他の者に習うように礼を述べ頭を下げた。
通されるままにその背に続き内に入り、促されるように着物を脱いでいく。女は慣れた手付きで手際よく世話を焼き、湯煙りの中へと俺を送り出す。
「あの夜ぶりか…久しいな」
一歩踏み出しながら声を掛けると、女が短く息をのむ音が聞こえた。
「夜菊…と呼んだ方がいいか?」
足を止め振り向くと、女は先程までとは違う笑みを浮かべ、小刻みに身体を揺らすと大きく後ろへと反り返った。骨が動くような音がし、女の身体が形を変える。
「その名まで呼ばれるとはねぇ…流石、明智様だ」
身体が大きくなり様々な場所の肉が動くと、着崩れた着物を直しながら、あの夜花街で見た顔が現れる。
「肌を合わせた女の匂いは、忘れられないものだ」
「あぁ、勿体ない。肌だけじゃなくて、最後まで頂いておけば良かったよぅ」
俺の言葉に、夜菊と認めた女は艶やかに笑って見せた。