第2章 気づき
確かに家康の言うことも一理ある。
ことねが突然現れた頃、俺は監視の為、中庭をはさんでことねの部屋がよく見えるこの場所で、よく酒を呑んでいた。
が、監視が必要ないと分かった頃から、そして今でも、俺は好んでこの場所で酒を呑む。
理由はことねの存在だ。
本人は無自覚のまま、周りの者達の心に入り込んでは離れない。しかも他人の気持ちに疎すぎる。平等に真っ直ぐに人の心に触れてきて、華のような笑顔を見せつける。そこには何のはかり事もない。
どうしようもない運命の中、懸命に真っ直ぐに生きることねの姿は美しい。
美しく、恐ろしい女だ。
そんなことねに、武将どもはすぐに籠絡された。もちろん俺も、御館様でさえも。
想いの大きさに違いはあれど、皆、心を持って行かれている。誰の顔にもそう書いてある。家康や三成さえも……。
今は御館様の所有物という建前があるが、さてどうなるか?
当の本人は、最近嬉しそうな顔をして天守によく通っている。機嫌の良い笑顔で、時折頬を染めて。
常に眼で追っている自分に呆れるが、ことねは自分の気持ちに気づいているのだろうか?