第2章 気づき
酒を呑み 月を見る
いつの間にか雲に隠れ 光届かぬ
思い出すのは
ひいろの顔
強い 挑むような瞳
闇夜に挑む 深い深い視線
最近、あの眼を時折思い出す。
ただ、思い出す。
昼間、「家康」と聞いて一瞬華やいだひいろの顔。瞬間、意味もなく胃の腑の辺りを誰かに掴まれた気がした。自分から帰ると行っておきながら足が向かず、ひいろが立ち去るまで待っていた。
あの時見ていた番頭の顔。表情は読めないが、何かに気づいたような眼。あの眼がやけに気になった。
『しばらく安土を離れる』
その一言が伝えられず、頭の中に残っていた。ひいろに伝えるのは、けして初めてではないし、ただの一言なのに、今日は伝えられなかった。
家康に向けた、ひいろの想いが邪魔をした。
妬いていたのは、俺の方か?
ひいろの兄にでもなったつもりか?
かわいい妹の恋路が気になるか?
秀吉のことを笑えないなと思い、杯を重ねる。
また月が顔を出した。