第23章 願い
「ちょっと待って!ひいろは俺が……」
「お嬢様の傷を診たいのであれば、まずはその身を清めて下さい!その様な汚れた身体で診て頂くわけにはいきません!隣の部屋に着替えも用意してあります」
家康の言葉を遮るように男が強い口調で言う。家康は口を閉じ男を睨み付けるが、大きくため息をつくとひいろを男へと託した。
「俺が行くまで、絶対に腕の傷は開かないでよ」
「分かりました」
男の返答にひいろを託すと、家康は足を洗い隣の部屋へと消えていった。
「光秀様も、よろしいですか?」
「従った方が良さそうだな」
一之助の言葉に肩をすくめ、ひいろを運び戻ってきた男にことねを託す。
「頼む」
「はい、お預かり致します」
丁寧に頭を下げことねを抱き抱えると、男は神妙な顔をして静かに襖の奥へと消えていった。
「申し訳ありません。皆、ひいろのことで気が立っているようで」
「仕方のないことだ。それだけ皆、ひいろが大事なのだろう」
「はい」
ことねが運ばれた後、襖が閉められる。それを見届け家康に続いて隣の部屋へと入ると、中には娘が二人おり、先にいた家康と一緒に世話を焼かれる。用意されていた湯を使い身体を拭き、着物を着替える。娘達は何も話さず、伏し目がちに手早に仕事をする。着替えが整うと、その娘二人が隣へと続く襖の前に左右に別れ座した。