第23章 願い
馬を託された者以外が竹林に入り、通りやすいように竹を押し倒し道を作る。その間を一之助を先頭に急ぐ。
家康の焦りが、その歩き方から伝わる。ひいろを揺らさぬよう、負担をかけぬよう、それでも早く、早く一刻でも早く。徐々に広がる歩幅と足の進みに、先を行く一之助も後に続く俺も、同じように歩みを進めた。
急に開けた先には畑が広がっており、その先の納屋の横で娘が一人大きく両手を振っていた。
「イチ兄様!此方に!」
近付くとその娘が一礼し先導をはじめる。そのまま足早に進み、母屋と思われる家屋の裏手から中へと入り、庭を抜ける。
「おじじ様とおばば様は?」
「黒からの知らせの通りにご用意を」
「そうか」
「……お嬢様は、」
「大丈夫だ。時期に良くなる」
「……はいっ」
娘はちらりと振り向き、家康の腕の中にいるひいろの姿に心配そうな顔をしたが、その思いを飲み込むように返事をした。
「こちらです!」
庭の先の部屋の障子が開かれ、その前で若い男と娘が手を振っていた。
「姫様とお嬢様はこちらに。皆様は先ず、こちらをお使い下さい」
近付くとそう言われ、隣の部屋へ入るよう入り口に娘が控え、足を洗う湯桶も用意されていた。