第22章 動く4
赤髪が輪の血を払うとひいろに近付く。一瞬早く駆け寄った一之助がひいろをその胸に抱き寄せると、鋭い眼差しで赤髪に刀を向けた。
「近寄るな!!」
赤髪が足を止め、手にしていた輪を軽く拭うと胸元から出した革袋に仕舞い、また胸元へと戻した。
「何もしない」
睨み合い、刀を向けたままの一之助の胸の中で、血だらけの顔を手で覆ったひいろが、うわ言のように一之助の名を呼ぶ。
「……イチ……イチ……」
「大丈夫です、ひいろ。私はここにいます。私は無事です。皆さん、無事です。皆、生きています」
ひいろを落ち着かせようと声をかけながら、一之助は尚も赤髪に殺気を向ける。
「早くしないと、眼、見えなくなるぞ」
赤髪の言葉に一之助は、はっとしたように刀を地面に置くと手拭いを出し、ひいろの顔についた血を拭いはじめた。
「これで洗い流せ」
赤髪が竹筒を差し出すが、一之助は受け取らない。すると赤髪は中味を飲んでみせる。
「ただの水だ。毒なんか入ってない」
それでも一之助は、手を伸ばすことなくひいろに付いた血を拭っていた。
前に聞いたひいろが幼くして斬られた状況と似ているからなのか、一之助が最善の道を選ぶようには見れなかった。ただ一心不乱に血だらけのひいろを懸命に拭う一之助。あの時はここで御館様が現れ、命を繋ぎ止めたと言っていた。今回もひいろを失うわけにはいかない。