第22章 動く4
「もう好きに動いていいのだろ?」
背の高い者に声をかけてみる。こちらに敵意はないようだが、味方と言うわけでもない。
「もう動いているのはどなたですかね。お好きどうぞ。姫の糸は外してありますが、念のため姫はその場にいて下さい。余分なことはしないことですよ」
「余分なことか……そうだな」
小さくため息をつき冷たい視線を寄越すが、やはり敵意はないようだ。ただ隙のないのは変わらずだった。
「ことね」
「私は大丈夫。早くひいちゃんをお願いします」
「家康、頼む」
「わかってます」
そう言うと家康は、ことねから離れひいろへと駆け寄る。家康が離れた後、ことねの近くには斧を振り回していた者がついた。心なしか、ことねから転がっている男が見えないよう配慮しているように見えた。ことねもそれに気付いたのか、その者に小さく頭を下げた。
駆け寄った家康は、赤髪から竹筒を受け取ると一之助を説き伏せ、ひいろの顔や眼を丁寧に洗い流しているようだった。
「あなたは側に行かなくていいのですか?」
ふいに背の高い者が話し掛けてきた。
「俺は案外疑り深いのでな。初めて会った者には特に」
「なるほど」
「取り敢えず聞いてみるが、お前たちは何者だ?」
「さあ」
「元締という者の下、金で動いているのか」
「残念ですが、答える義理はありません」
「そうだな」
「えぇ」
そんな互いを値踏みするようなやり取りをしていると赤髪がこちらを見た。