第22章 動く4
「さあ、そろそろその娘を離して、あなたは命だけもってお逃げなさい」
また大きくため息をつき、背の高い者がうんざりしたように言うと、狼狽えていた男の動きが止まる。
「うっ、うるさい!!馬鹿にしおって!!」
青白かった男の顔が、赤くなり眼が据わる。
「お前らの言いなりになど、なるつもりはないわ!!」
そう叫ぶとひいろを突き飛ばし、抜刀し刀を振り上げる。
「やめろーー!!」
「ひいろ!!」
「つっ……」
家康が叫び、一之助が走る。俺は急ぎ鉄砲を構える。
「お前など、もう用はない!!」
踏ん張りきれず、よろけて地面に倒れ込んだひいろに、そう叫ぶと男がそのまま刀を振り下ろす。
息を止め、僅かに震える指先で引金を引く。
必死な顔で刀を振り下ろす男を、ひいろは真っ直ぐに見つめていた。
俺の放ったの玉が、男の手から刀を弾き飛ばした瞬間、男の首もとんだ。
一瞬のことに息を飲んだ俺達の前で、男の身体が首から上を失ったことに気付かないように、一歩、二歩と進む。
そのすぐ側に、いつの間にか赤髪の姿があり、手にした輪が赤黒く光っていた。
どさりっ
切り飛ばされた頭が地面へと落ちると、先程までそれがあったはずの場所から大量の血を吹き出し、崩れるように倒れる。その血が側にいたひいろを赤く染めた。
「……いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
初めて聞くひいろの声だった。