第22章 動く4
家康と一之助を見ると、二人とも直ぐにでも動き出せるように、腰を落とし下ろした刀を低く構えていた。
赤髪を見て殺気だった一之助は、滴り落ちるひいろの血に我に返ったのだろう、何時もの冷静な顔つきになったが、その殺気だけはびりびりと伝わって来るほどに高まっていた。
ことねを見ると顔色は悪いものの、落ち着いた様子でいる。忍び装束のやつらが、ひいろに危害を加えるつもりがないとわかったからなのだろう。そうなるとことねは強い。首に糸を巻かれ命が危ういと言われても腹が決まったのだろう、怯えることも慌てることもなく、しっかりと眼を開き前を向き、ひいろが助かると信じて見守っている。
家康は背に庇うことねを気にしながら、ひいろの傷の具合いを案じている。その血が地面を濡らす度に下唇を噛み、その眼が怒りに揺れていた。ひいろの唇の色が抜けていくのを見ているのは、そろそろ限界だろう。
もちろん俺も同様だが、ことねの命を握られている今、この鉄砲であの男を撃ち抜くわけにはいかない。狼狽える男に捕らえられたまま、ひいろはふらつきながらも自らの足で立っている。あの顔色を見れば、それさえも厳しいことは一目瞭然だが、強い眼の光は消えてはいなかった。
鉄砲を握る手に力が入る。また焦りだしそうな思いを押さえ付け、何とか突破口を探る。