第22章 動く4
「元締がお怒りなのですよ」
「……だが、これは致し方ないことで……」
元締との言葉を聞いて、男の様子が変わる。隣で、ぽたりと音が聞こえるかのように、ひいろの腕の血がまた地面を濡らす。
「早くしろ」
そう言うと、険しい顔の赤髪が背の高い者の隣に降りる。背の高い者が赤髪を見て、一瞬その眼差しをゆるめるが、すぐにまた戻すと突き刺すように男に向ける。
「元締だけではありませんでしたね、怒っているのは。
まぁ、そう言うわけです。我らの仕事を無能な者共が邪魔立てしたことは、大いなる侮辱と捉えます。
それに元締は、織田と争う気は無いそうですよ。そんなことをして、泥舟に共に乗る気はありませんからね。
ただお金を頂いた分、あなた方をここから逃がす事だけはお手伝い致します。さあ、その娘を離し、早々に立ち去りなさい」
その声に、男とひいろを守るように取り囲んでいた者達が、それぞれの顔色を伺いながら、徐々にその囲いを崩していった。
元々忠誠心などなかったのだろう、一人が抜けると続くように、そろりそろりと人が離れていく。
「もっ、戻れ!戻れ!何をしている!戻らんか!!」
男が大声を上げるが、我先にと走り出す者は止まることはなかった。動けないでいる俺や家康達の間をぬい、振り返ることなく走り去った。残された男は、哀れ真っ青となり頬をひきつらせる。