第22章 動く4
「織田にいろは屋の皆さん、動かないで下さい。動けば、麗しい姫様の首と胴が離れてしまいますよ」
ことねの首にいつの間にか、細い糸が巻き付けられていた。その先が背の高い者の手にあるようで、手を動かすと糸が緩んだり絞まったりして、ゆらゆらと踊るように動いてみせた。
先程赤髪が一之助を焚き付けたのは、この為に注意を向けたかったのだろう。してやられたと思い、鉄砲を下におろすと、家康と一之助も刀を下ろした。
「いい子ですから、姫様も皆さんもそのままでいて下さい。無駄なことはしたくないので」
そう静かに言う背の高い者に、男が噛みつく。
「無駄なことなどない!金は渡しているんだ!早くそいつらを始末してくれ!」
そう言うと、ひいろを強く引き寄せる。開いた傷が痛むのか、ひいろの顔が歪み、赤く染まった布を伝い地面へと血が垂れる。
「ひいろちゃん!!」
ことねの悲鳴のような声が聞こえる。
「姫様はお優しいですね。ですが、もう少し静かにお願いします。今から大事なお話がありますので」
冷たい眼差しをことねに向け黙らせると、背の高い男は今度はそれをあの男へと向ける。
「お金は頂いております。ただ、仕事内容が違うようですが、いかがですか?」
「なっ……」
「我らは、いろは屋の娘を無傷で連れてくることを請け負いました。
ですが、何処かの馬鹿者が先走って無用な手出しをし、関係のない者を巻き込み、娘に傷を負わせた。これは、如何なものですかね」
「それは……」