第22章 動く4
赤髪が屋根へと上がるのと入れ代わるように、ことねを背に守る家康の前にも、大きな身体の忍び装束の男が現れる。こちらは斧のようなものを持っているが、動くことなく黙ったまま家康の動きを封じるように手にした斧を軽く振り回した。
「ほどほどにして下さいよ」
そう声がして屋根の上からまた一人現れ、大きくため息をつくと、殺気立つ一之助の前に音もなく降り立った。こちらは背の高い細身の身体で、武器らしいものは持っていないが、その眼差しは冷たく、隙の見えない威圧感が感じられた。一之助も同様に感じたのか、一歩引き刀を構え直した。
「遅い!!待っていたぞ!!」
忍び装束のやつらの姿に、ひいろを捕らえている男が息を吹き返したようにそう叫ぶ。
先程の合図は狙撃だけではなく、こちらが本命だったのだろう。様子を見ながら手早く鉄砲に玉を入れ直す。
「そうですか、それはお待たせ致しました」
「早く!こいつらを何とかしてくれ!!」
一之助と対峙しながら背の高い者は、声だけで男を軽くあしらうように返事をする。それに対し男は焦りと苛立ちをそのままに、怒鳴るように叫んだ。また大袈裟にため息をつくと、背の高い者が右手を軽く挙げ手を開いた。
「えっ!?やっ、なっ、なんで!?」
家康の後ろに守られていたことねが、急に声を上げる。