第22章 動く4
ひいろと眼が合う
一瞬小さく微笑んだように見えたが、すぐに強い眼差しに 戻る。その一瞬の微笑みに、胸の奥の何かを掴まれ、腹の底が熱くなる。焦りが薄れ、ただただ、この胸に抱き留めたい衝動に駆られる。
走り出しそうな思いを押し込め、腰にある鉄砲に手を伸ばす。ひいろの眼は助けを求めるものではない。自ら切り開く為の機会を伺っている。例え自分の身が危うくても、自分の始末は自分でつけたいのだろう。ひいろはそういう女だ。ならば俺は、お前の望むように動くまで。
鉄砲を手に取ると、その銃身をひいろを捕らえているあの男に向け構える。少しだけ、あの男の気をそらしてやればいい。その瞬間、間違えなくひいろは動くだろう。ひいろの思いが伝わってくるように、ひいろに俺の意図は伝わるだろう。戦いながらひいろと俺の様子を伺っている一之助も、理解するように敵を翻弄しながらひいろへと近づく。
来るべき時のため、火縄に火をつけ狙いを定める。鉄砲を構えた俺に気付いた奴等が慌て出す。僅かに間をおき、真っ直ぐに俺を見るひいろが小さく頷き腰を落とした。
今だ
そう思った瞬間、家康の声が耳に届く。
「光秀さん!上!」
と同時に、俺の指は引き金をひいた。