第22章 動く4
「光秀様、お頼みしたいことが」
「なんだ」
「今から、真っ直ぐに斬り込みます」
「俺に背を守れと?」
「いえ、私が動けば自ら逃げ出そうと、必ずひいろも動きます。いい子で待っていることなどできませんからね。ですので、ひいろをお願いしたいのです」
「自ら囮になるということか」
「そうですね。ひいろのあの様子ですと、時を掛けるのは危ういかと……」
「確かにな」
「はい」
そう答えると一之助は眼鏡を直し、その指先で軽く滑らせるように刀の柄を撫でると、静かに鯉口を切った。
「では、お願い致します」
言い終わると一之助は、真っ直ぐに敵陣へと走り出す。慌てて構え直す男達へ抜刀と共に斬りかかり、流れるように刀を振るうかと思えば、地面を覆う砂を目潰しに蹴ったり殴り付けたりと、読めぬ動きをして敵を翻弄しはじめる。その動きは荒いようだが的確に相手の急所を狙い、流れ出る血の量を少ないものとしていた。
戦いながらひいろを案じるその思いが、一之助の動きに見てとれた。そんな一之助の姿をひいろは、慌てる男達の中から少し悲しげに眼で追っていた。自分の為に誰かが傷つくこと。その事がひいろ自身を苦しめているのだろう。
真っ直ぐに一之助を追っていた眼を、ひいろは強く閉じた。そしてゆっくりと開いたその眼は生気を宿し、いつもの強い光を取り戻しつつあった。その眼が一之助から俺へと移る。