第22章 動く4
刀を構え前を見据えると、ひいろを囲むように男達が集まっていた。皆、ひきつった顔で刀を構える中、あの男だけは相変わらず下卑た笑いを浮かべていた。
ことねには逃げられたが、手駒に必要なひいろがまだその手の内にあるからだろうか、それとも何か策があるのだろうか。
男の見せるその余裕に注意を払いながら、男達の間に見え隠れするひいろを眼で追う。腕の染みが先程よりも赤く広がり、その色が奪われているのか唇が色を失っていった。
早く、早くひいろをこの手に……
あの肌にあるぬくもりが消えてしまいそうで、ひいろを失うかもしれないという焦りが、ざわざわとした感覚となり背中を這い上がってくる。
それを払うように刀の柄を強く掴み直し、足場を確認する。
「光秀様」
次の動きを制するように、隣に並ぶ一之助が俺の名を呼ぶ。瞬間、鼻先にわずかな火薬の匂いを感じる。
成る程、そういうことか
何処からか狙撃の機会を伺う者がいる。それがあの男が見せる余裕だったのだろう。眼を凝らし耳を澄まし気配をさぐるが、思っているような動きはみられない。
ふと、一之助の口角が上がる。
と、ずしりとした音と共に、塀の外から火縄銃や弓矢が幾つか投げ込まれた。
「ご期待通りには、ならないようですね」
その言葉に笑っていた男の顔がひきつる。
「少しはお役に立てましたか?」
「そのようだな」
ふっ、と微笑むように息を吐き一之助が、刀を鞘に戻しす。