第22章 動く4
「 早く……早く、止血を!」
ひいろの姿しか眼に写っていないのか、尚もあがくことねに近づき、家康に抱かれたままのその頬を叩く。
「ことね、お前がそうしていることが一番時を無駄にしている。いい加減に黙れ」
「光秀さん!」
咎めるように叫ぶ家康の声を聞き流し、驚いたようにことねが俺を見る。跪いて目線の高さを合わせると、ことねの瞳がしっかりと俺を映す。
「わかるな」
その声にゆっくりと頷くと、ことねは眼に涙を溜めそれを我慢するように下唇を噛んだ。
「……ごめんなさい、もう邪魔はしません。だから、早く…早く…ひいろちゃんを」
そう言うとことねは家康の胸へと顔を埋め、小さく震えた。その頭を家康が優しい手つきで撫で耳元で何かを囁くと、ことねは顔を上げずに何度か頷いてみせた。そんなことねを隠すように、守るように、家康が優しく抱きなおす。
「頼んだ」
俺の声に家康が頷く。その眼は愛しそうにことねを見ていたものとは違い、冷たい怒りの炎を宿しているようだった。
家康にことねを頼み、俺達を背に刀を構え男達と対峙する一之助に並ぶ。
「待たせたな」
「いえ、あちらも体制を立て直したかったようですので、問題ありません」
そう答える一之助の視線は、男達に捕らえられたままのひいろへと向けられたままだった。