第22章 動く4
静まり返った外廊下を、誘い込まれるように進む。
「ふんっ、他にも入り込んだ奴がいたか」
思った通り先程の男が、大勢の男達の背に隠れるようにして鼻先で笑っていた。男の前には、ことねとひいろが別の男達に掴まれ立たされていた。
「家康!光秀さん!」
ことねが弾かれたように声を上げる。
「ことね!! ひいろ!!」
家康の声にことねは一瞬嬉しそうな顔を見せ、縛られ握られている手を振りほどこうと、懸命に抵抗してみせた。
ひいろは首に白い布を巻かれ、右腕を肩から布で吊っていた。怪我のためか縛られることはなく、傷が深いのか青白い顔で静かにこちらを見ていた。その姿に一之助の殺気が増す。
「……いろは屋に、徳川家康と明智光秀か。武将二人が助けにくるとは、本当に織田の姫らしいな」
そう言うと笑っていた男は、ことねに近付きその髪の毛を一房指にとる。ことねが嫌そうな顔をして男を睨む。
「この器量だ、魅了しているのは信長だけではないようだな。どうだ大事な姫の命が欲しくば、取引としようではないか」
「取引?」
家康が低く問いなおすと、また男が笑う。
「我らは織田の姫に用はない。この姫を渡す代わりに、こちらの女と我らが去るのを黙って見ていろ。
悪い話ではないだろう。お前らの大事なのは織田の姫様で、いろは屋の娘は関係無いだろうからな。顕如らには悪いが、余計な手間などかけたくな……」
「だめ!そんなの絶対だめ!ひいろちゃんは渡さないんだから!!」
男の言葉が終わる前に、ことねがまた暴れだす。