第22章 動く4
夜と朝の狭間の時を、息を潜め進む。慎ましく鳴いていた虫の声が途絶え、通り過ぎた場所からまた遠慮がちに鳴き始める。
途中で家康らと別れ、板塀に囲まれた件の屋敷の裏手にまわる。裏木戸の前に立ち合図を送ると、一人が板塀を乗り越え内へと消える。
程なく裏木戸が開き、仕掛けられていた鳴子の音が大きく鳴り響いた。
「他は毒矢のみでした」
「ご苦労」
先に入った供が、他の仕掛を外したことを報告する。
「続け」
鯉口を切り裏木戸をくぐると、鳴子の音を聞きつけた男達が集まって来ていた。
「何者だ!!」
「さて、何者だろうな」
「いろは屋か?織田の者か?」
「ほう、お前は色々と知っているようだ」
「ふん、だとしたらなんだ」
「いや、特に用はない」
「なっ!何だと!馬鹿にするのか!」
大声を出し男が刀に手をかけると、集まってきた他の男達も同様に身構える。
「まとめて、斬るだけだ」
男を見据えたままゆっくりと刀を抜くと、後にいる供も次々に抜刀する。夜の闇を解かすように、徐々に東の空が白みはじめる。
睨み合ったまま静かに間合いを詰めていくと、灯りに照らされた男がにたりと笑ってみせた。それに此方も小さく微笑み返す。
「残念だな。矢は飛ばぬらしい」
その言葉に毒矢の仕掛が外されたことに気付いたらしく、男の顔が怒りが見えた。
「ならば斬り捨ててくれるわ!」
男のその声を合図に、身構えていた男達がいっせいに斬りかかってきた。