第22章 動く4
「そうだな。奴等の気の緩む頃だろう。明けきらぬ前に動くとするか。
一之助、家の者は?」
「去年、妾同士のいざこざがございまして、死人が出ております。妾の一人が他の者達に毒を盛ったのそうで、その後主人も病に倒れ、あの屋敷は無人になり人の手に渡ったそうです」
「毒って……それも赤蜘蛛が関わってるわけ」
「恐らくですが、家康様の考えられている通りかと。表立った話は出ておりませんが、裏で糸を引いたのは赤蜘蛛と思われます。あの屋敷は使い勝手が良さそうですので」
「……胸糞の悪い奴だね」
眉間にシワを寄せ、家康が呟く。
「ならば今あそこにいる者は、全て斬ってもよさそうだな」
俺の言葉に二人が頷く。
「来るのを待ってるなら、正面から乗り込んでやればいい。先陣は俺が」
「いえ、家康様。内を知る私が参ります」
「いや、俺が行く。家康は、ことねとひいろを探し出せ。ひいろは手当ても必要だろう」
「…わかりました。確かにひいろの傷は心配です」
「一之助。お前は家康に付き、内を案内しろ。
それと、何人連れてきている?」
「五人」
「その者達は中に入れるな。間違えて斬っても面倒だ」
「はい。では、外を固めさせて頂きます」
「それでいい」
三人で確認するように頷きあい、控えている供の者へ声をかける。
「家康方に三名、他は俺に続け。裏から入り奴等をなるべく庭へ引きずり出す。俺の合図があるまでは内に入るな。なるべく時を稼ぐ」
「はっ!」
「家康は動きをみて表から入れ。ことねとひいろを頼む」
強く家康が頷き、一之助が眼鏡をなおす。
それぞれの殺気が一つになったところで、短く息を吐く。
「いくぞ」