第22章 動く4
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秀吉が聞き出した家屋は町外れの林の中にあり、他の家々からの関わりを断つようにあった。
俺と家康と一之助、他に捕縛の為の供が数名。合わせて十数名程の男共が、夜の明けきらぬ中、少し離れた荒屋で息を潜めている。
「随分とよい場所を知っているな」
「彼方のお屋敷は、いろは屋の上得意様でしたので、この辺りのことは少しは存じております」
「ほぅ、ならば中もわかるか」
「はい。彼方の主人は、いつも数名の妾を一緒に住まわせておりましたので、部屋数も多く庭も広く作られております」
俺の問いにそう答え、一之助は土間に枝で見取り図を書いて見せた。
「恐らく、玄関から遠く見張りやすいこの辺りの部屋に囚われているか……もしくは、この一番広い部屋に見張りの者達と一緒にいるか、というところでしょうか」
幾つかの丸印をつけ、一之助が俺を見る。
「敵はすでにことは様が織田の姫様であることを知ったようです。庭に灯りを灯し、人も増やしました。恐らく二十程です」
「いや、更に六名増えた」
「おや、流石は明智様。お耳が早い」
「お前には負けそうだがな」
声だけは少し驚いたようにみせて、相変わらずの無表情で一之助は答える。
「そういうのはいいですから、早く行きませんか」
家康は聞こえるように大きくため息をついてそう言った。
ことは達がいる場所を目の前にして、ようやく家康の苛立ちが鎮まったようだが、殺気だけは真っ直ぐに二人の囚われている屋敷に向かっていた。