第21章 動く3
「意味というほどのことではございませんが、ひいろの傷痕は身体が熱をもつと、赤く背に浮き出てまいります。刃先に何かしらの毒が仕込まれていたのかもしれませんが、なんの毒なのかはわからぬままです。それにその痕が、円を描いたように丸いのです」
「丸い?刀傷……じゃないのか?」
吉右衛門の言葉に政宗が一之助を問うと、一之助は小さく頭を振った。
「申し訳ありませんが、何で斬られたか私にはわからないのです。ひいろが斬られるまで、そこから狙われていることにさえ気付いていませんでしたので」
少し苦しそうな顔をして一之助が答える。
「ただ、赤い髪だけは、はっきりと覚えています」
「赤い髪?」
「はい、ひいろが倒れる瞬間に見えたのです。鮮やかな赤でした。恐らくひいろを斬った者のだと思われます」
「その場の始末は、手前どもが行いましたが、赤い髪をもつ者も、刀や匕首以外を持つ者もおりませんでした」
一之助の言葉を引き継ぐように吉右衛門が話すと、続けて三成が口を開く。
「本来の目的であるひいろさんを拐うことができないと判断したため、その赤髪は引いたというところでしょうか。その者のですが、円を描くような太刀筋、武器の形はわかりませんが、その刃先には毒が仕込まれているかもしれない。となると、忍の技をもつ者だと考えられますが」
三成の言葉に吉右衛門が頷く。