第21章 動く3
風に耳を澄まし闇夜の静けさを肌に感じていると、先程聞いた男の叫び声が耳の奥でこだまする。同時に、手にはその身を刺す感覚が蘇り、ぐずぐずと足元から闇の奥底に囚われそうな感覚に襲われる。
それを振り払うように大きく息を吐き、夜空を見上げる。いつもながら、あまり気持ちのよいものではないなと思いつつ、ここにはいない二人を思う。
ことねとひいろも同じ夜空を見ているのだろうか。無事でいるのだろうか。
考えはじめると、止まることを知らない川のように、次々と思いが流れ出て、ぐるぐると巡りはじめる。
不安、怒り、恐れ、焦り、嫌悪、憎悪、
悲しみ、後悔、甘え、寂しさ、愛しさ、
それら全てを一つにするように大きく息を吸い、腹の底へと飲み込む。
そんな思いなどなかったように、ないように。いつもの顔に戻るよう、いつもの自分に戻るよう。必ず二人を取り戻すため、自分のするべきことをするために。
振り払うように目を閉じて呼吸を整えるも、ことねの笑顔が瞼に映り、肌がひいろの香り欲する。押さえることのできない焦りが押し寄せ、目を開く。
夜空には相変わらず隠れたままの月が、時折その輪郭を弱々しく雲間から覗かせていた。
これが人の弱さというものなのか。守りたいもの、失いたくないもののいる怖さななのだろうか。
小さく唇を噛み前を向く。