第21章 動く3
「だから迷ってるんだろ。迷うのは悪いことじゃない。だがな、聞いて欲しい」
男の顔が秀吉へと向く。
「お前らが連れ去った娘達は、俺の大切な人だ。これ以上、辛いことや怖い目には合わせたくない。ましてや何かの策略に使われるなんて、真っ平ごめんだ」
真剣に話す秀吉の言葉に、男が引き付けられていく。この男も、もう落とされるだろう。この天性の人たらしに。
「お前にもいるだろ、大切な人が。だからさっき身近な者のことを言われて、本気で怒って叫んだんだろ」
男が下唇を噛み、小さく頷く。
「何か事情があるなら教えてくれ。力になる。話してくれれば、必ず悪いようにはしない」
暫く秀吉のことを見つめた後、男は今度は大きく頷いた。秀吉の言葉に、その腹が決まったのだろう。
「そうか、ありがとうな。でも、まずは足の手当てからしような」
そう言って微笑んだ秀吉を見届け、俺はその場を後にした。牢を出て外で待っていた牢屋番に話すと、すぐに医者を呼びに走って行った。
外はすでに夜の闇を色濃く迎え、見上げる空の月を雲が隠していた。
一人になり、小さく息を吐く。
今頃、秀吉が全てを聞き出しているだろう。それを静かに待つ。