第21章 動く3
「どうだ、何か思い出したか?」
俺の問に男は何も答えず、唇を噛んだままにらみ返してくる。
「そうか、まだ思い出せないか」
男から離れ、道具箱から太めの針を手に取る。男の恐怖心を煽るようにゆっくりと戻り、見えるように針を蝋燭の灯りで照らす。男の目に怯えの色が見えはじめる。
「だがな、俺は待つのが苦手でな」
五寸釘で固定された足の親指の爪の間へと、蝋燭で炙った針を突き刺す。歪む男の顔を見ながら蝋燭を手に取り、その針へと蝋を垂らす。痛みと熱さに男が叫ぶ声を聞きながら、続けざまに隣の指の爪の間にまた針を刺し蝋を垂らす。男の叫ぶ声が大きくなり、怯えの色が濃くなってくる。
「次はこの足を止めている釘に垂らすか?針とは違い太い分、もっと熱さが分かりやすいだろうなぁ」
「やっ、や…め………」
明らかに男の態度が変わり、目は力を失い痛みに怯え小刻みに震えはじめる。
それを確かめると男から一歩離れ、新しい蝋燭を取ろうと手を伸ばす。
「やりすぎだぞ!光秀!」
その手を掴み、秀吉が力任せに俺を後ろへと引っ張る。
「おっと、俺は御館様の命に従っているだけだ」
「たが、やり方というものがあるだろ!」
俺の胸ぐらを掴む秀吉と視線を合わせ目で合図をし、互いの意を確認する。
そう、次は秀吉の出番。ここからは、人たらしの力を大いに発揮してもらおう。