第21章 動く3
「そうか、お前は顕如を知っているのか。ただの下っ端、というわけではないみたいだな。ならば色々と聞かせてもらおう」
その言葉と共に潜めていた秀吉の殺気が、男へと向けられる。
「なっ……なんのことだ……そうだ!俺は何も知らん!だっ、だから顕如などというやつも知らん……」
先程までとは違う秀吉の様子に、男の顔に焦りの色が見えはじめる。
「まあ、待て秀吉。俺が代わろう」
「……光秀」
詰め寄ろうとする秀吉の肩に手を置き、振り向いた秀吉に目配せをする。微かな気配をくみ取り、秀吉は俺に場を譲る。
男の表情がよく読めるよう、蝋燭を近付ける。それは勿論、俺の顔を相手に見せる為でもある。
「残念だな、何も知らないとは。だが、思い出す、ということもあるだろう」
顔を近付け薄く笑ってやると、男もつられたように引きつった笑いを見せる。
「おっ、思い出すことなど、なっ……何もない!」
「そうか、残念だ」
部屋の隅に置いてある道具箱から五寸釘を取り出すと、男の左足を押さえ一気にその甲へと突き刺す。男は歯を食い縛り、かろうじて声を押さえた。
「ほおぅ、口だけではないようだな」
「だっ……黙れ……」
「残念だな。今、俺は機嫌がいいのでよく喋るぞ」
「…何も……知ら……」
「ただ、少し気が急いていてなぁ」
そう言うと笑みを深め、男の足に浅く刺さっている五寸釘に足を乗せ、ゆっくりと力を込め踏み込む。
「ぐっ、………ぐぬぁぁぁぁぁ!!」
こらえきれない男の叫び声が牢内に響き、秀吉が顔を背ける。