第19章 動く
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光秀の去った部屋の中、女が着物を着替えその横で先程の小女が褥を片付け酒の用意をしている。
「あぁーあー。あんたが香なんか焚くから、いい男を逃がしちゃったじゃないか」
「私は番頭さんの言い付けを守っただけです。夜菊こそ今回はつなぎだけだって言われたのに、手なんかだすからいけないんですよ」
「だってさぁ、あんないい男があんな顔して現れたら勿体ないだろぅ」
「はいはい。さすが番頭さん、こうなると分かっててお香を持たせたんでしょうね。でも……」
「なんだい?」
「お嬢様の香りにあれほど反応するなんて……どういう間柄なんでしょうね?」
「さあねぇ。そういう間柄なんじゃないかい。番頭があたしを止めるんだもの、ただの間柄じゃないだろうねぇ」
「確かに。なんであれ、お嬢様にとって良い人であればいいのですが」
「そうだねぇ」
二人が神妙な顔をして黙りこんでいると、外から梟の鳴く声が聞こえた。弾かれたように小女が立ち上り廊下へと出て行き、すぐに戻って来る。